· FabLab Westharima Team · レーザー加工機  · 14 min read

【2025年版】CO₂レーザー加工初心者必見!ベクターとラスターの違いと失敗しないデータ作成方法

CO2レーザー加工の基本、ベクター形式とラスター形式の違いを初心者向けに徹底解説。よくある失敗例と推奨設定で、安全で確実なレーザー加工を始めましょう。

目次

レーザー加工を始めたばかりの方が必ず直面する「ベクターとラスターの違い」。言葉では理解していても、実際のデータ作成や加工で躓くことは少なくありません。

この記事では、私自身が実際に失敗して学んだ経験をもとに、ベクターとラスターの違いだけでなく、初心者がやりがちな失敗例無料ソフトInkscapeでのデータ作成のコツまで解説します。


📌 この記事の対象 この記事は CO₂レーザー加工機(40W〜80W程度のホビー機) を想定しています。ファイバーレーザーやダイオードレーザーでは一部の仕様が異なる場合があります。

📖 用語の定義 この記事では以下のように用語を区別しています:

  • ベクター形式/ラスター形式:データの保存形式(SVG、PNG など)
  • ベクター加工/ラスター加工:レーザー加工機における加工方法(パスに沿った照射 vs. 面全体をスキャン)

ベクター形式とラスター形式の基礎知識

画像形式(ベクターとラスター)は、それぞれ違う特徴を持つため、自分の作品により最適のデータ形式を選ぶ必要があります。

ベクター形式ラスター形式
データの構造点・線・パスなどを数値化(座標で表現)非常に小さな四角(ピクセル)の集合体
拡大・縮小拡大しても境界線がなめらか拡大すると輪郭がガタガタになる
ファイル拡張子SVG、EPS、AIPNG、JPG、GIF、BMP
ソフトウェアInkscape(無料)、IllustratorなどGIMP(無料)、Photoshopなど
得意な用途文字、図形、イラストやアイコン、ロゴ写真、濃淡・微妙な色の変化の画像

レーザー加工におけるベクターとラスターの違い

レーザー加工機では、ベクターとラスターで加工方法が大きく異なります。自分が希望するレーザー加工内容により、最適の形式を選ぶ必要があります。

ベクター加工ラスター加工
レーザー加工切断・彫刻彫刻のみ
レーザーヘッドの動き示された線(パス)をなぞって加工X軸方向に水平走査を繰り返して加工
レーザー光の出方始点から終点に向かって連続照射ピクセル毎にスポット照射
加工時間無駄のない動きのため短時間全面をスキャンするため時間がかかる
向いている作品例図形のカット、文字の切り抜き写真の彫刻、グラデーションや濃淡表現が必要な作品

レーザーヘッドの動きを理解する

ベクターとラスターの違いを理解する上で、レーザーヘッドの動きを知ることは非常に重要です。

ベクター加工ラスター加工
動き方連続してレーザー照射しながら、パスに沿って動く左右に動きながら、1ピクセルずつスポット照射
線の加工イメージ
図形(塗りつぶし)の加工イメージ

ベクター加工はパスの始点から終点まで一筆書きのように動き、効率的で加工時間が短いのが特徴です。ラスター加工は常に左から右に往復運動し、全面をスキャンするため時間がかかります。

初心者がやりがちな失敗例5選

実際に私が経験した、または多くの初心者が陥る失敗例を紹介します。これを知っておくだけで、多くのトラブルを回避できます。

① 線幅を変えれば加工が太くなると思い込む【最重要】

これが私が最初にした最大の勘違いです。

  • 間違った認識:「ドローソフトで線幅を太くすれば、レーザー加工も太くなる」
  • 正しい理解:ベクター加工では、レーザーはパス(線の中心)に沿って設定したパラメータ通りに出力されます。線幅を変えて見かけ上の太さを変えても、実際の加工幅(kerf:切断幅)は変わりません。 加工幅はレーザーの出力・速度・焦点・素材によって決まります。
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  • 解決策:太い線を作りたい場合は、パスを複数本並べるか、アウトライン化する。レーザーの出力パワーや速度で調整する。

② 重複パス(ダブルライン)の見逃し【危険】

  • 同じ場所に複数のパスが重なっていると、レーザーが同じ箇所を2回以上加工します。これにより素材が焦げる・焼ける、最悪の場合、発火の危険性があります。

  • 確認方法(Inkscape):全てを選択(Ctrl + A)→ 表示 → 表示モード → アウトライン(Ctrl + 5)→ 重なっているパスがないか目視確認

③ 線が細すぎる・間隔が狭すぎる

参考値(一般的な40W〜80W CO₂レーザーの目安)

  • 最小線幅:0.3mm以上(レーザービーム幅が約0.3mm)
  • 最小間隔:0.7mm以上推奨
  • 素材の蒸発:約0.2mm程度の幅が蒸発する

⚠ 重要:これらの数値は機種・出力・素材・集光レンズによって大きく変わります。必ずテストカットで確認してください。

データ上で1mm間隔の線を描いても、実際の加工では約0.8mmの間隔になることがあります(0.2mm分が蒸発)。

④ テキストのパス化(アウトライン化)を忘れる

  • テキストをパス化せずにデータを渡すと、レーザー加工機側にそのフォントがない場合、別のフォントに置き換わったり、文字の形が崩れたりします。

  • Inkscapeでのパス化手順:テキストを選択 → パス → オブジェクトをパスへ(Shift + Ctrl + C)

  • 注意:パス化すると文字編集ができなくなるため、必ずバックアップを取る。パス化前に誤字脱字がないか必ず確認。

⑤ ラスターとベクターの混在による失敗

  • 切断(カット)にはベクターパスが必須です。画像の線はラスターデータなので切断できません。混在させる場合は、それぞれのレイヤーや色を明確に分けます。

無料で使えるデータ作成ソフト

レーザー加工用のデータを作成するには、専用のソフトウェアが必要です。以下、無料で使える代表的なソフトをご紹介します。

ソフト名種類レーザー加工向け用途・ポイントOS対応
Inkscapeベクターグラフィック◎(最も適している)- SVG形式で「カットライン」「彫刻線」を正確に指定
- 線の太さ・色で加工条件を指定しやすい
- 多くのレーザー加工機(Glowforge、xTool、FLUXなど)で直接対応
- レーザーデータ作成のメインツール
Windows/Mac/Linux
GIMPラスター(ビットマップ)画像編集△(主に彫刻データ用)- 写真やイラストをグレースケール化して彫刻加工用の画像を作成
- カット線を扱うには不向き(ベクターが必要)
- 彫刻やマーキングデータを作る補助として使用
Windows/Mac/Linux
Kritaペイント・イラスト制作(ラスターベース)△(アート系彫刻データ)- 手描き風イラストやテクスチャ作成
- ベクターデータ出力は弱い
- アート寄りの彫刻素材作成に向く
Windows/Mac/Linux

選び方のポイント

  • カット・切断が必要Inkscape(必須)
  • 写真彫刻 → GIMP または Krita
  • 手描き風デザイン → Krita

いずれも日本語に対応しており、オンラインに多くのチュートリアルがあるため、初心者でも学びやすいソフトです。

Inkscapeでのデータ作成のポイント

ここからは、Inkscapeを使った具体的なデータ作成方法を解説します。

基本設定

切断用の線

  • 線幅:0.1〜0.3mm
  • 色:RGB赤(R: 255, G: 0, B: 0)
  • 塗り:なし

彫刻用(ベクター)

  • 塗り:RGB黒(R: 0, G: 0, B: 0)
  • 線:なし

💡 色設定について 多くのレーザー加工機では、色ごとに異なるパラメータ(出力・速度)を設定できます。赤は切断用、青や緑は彫刻用、黒はラスター彫刻用と色分けするのが一般的ですが、機種によって対応が異なります。お使いの機種のマニュアルで確認してください。

必須の操作

操作内容手順ショートカット
テキストのパス化パス → オブジェクトをパスへShift + Ctrl + C
線幅の設定オブジェクト → フィル/ストローク →「ストロークのスタイル」タブ → 幅を0.1〜0.3mmに設定Shift + Ctrl + F(ダイアログ)
重複パスのチェック表示 → 表示モード → アウトラインCtrl + 5
保存ファイル → 名前を付けて保存 →「最適化SVG(*.svg)」を選択なし

データ作成前のチェックリスト

  • テキストはすべてパス化されているか
  • 切断線は0.1〜0.3mmの線幅か
  • 重複パスがないか(アウトライン表示で確認)
  • 線と線の間隔は0.7mm以上あるか
  • 切断用パスと彫刻用パスは色分けされているか
  • SVG形式で保存されているか

推奨値一覧表

項目推奨値(目安)理由
最小線幅0.3mm以上レーザービーム幅に対応
最小間隔0.7mm以上熱による蒸発を考慮
文字サイズ(切り抜き)10mm以上細かすぎると崩れる
文字サイズ(彫刻)1〜3mmベクターが鮮明
切断線の色RGB (255, 0, 0)視認性・設定の統一
切断線の線幅0.1〜0.3mm多くの加工機で推奨

⚠ 注意:上記の数値は一般的なCO₂レーザー(40W〜80W)での目安です。実際の加工では機種・素材・パラメータ設定により大きく変わるため、必ずテストカットで確認してください。

まとめ

この記事で学んだこと

  1. ベクターとラスターの違い:データ構造から加工方法まで
  2. 初心者の5大失敗例:線幅の勘違い、重複パス、細すぎる線、パス化忘れ、形式の混在
  3. レーザーヘッドの動き:ベクターは一筆書き、ラスターは往復スキャン
  4. Inkscapeでのデータ作成方法:推奨値、チェックリスト、色分け設定

実際に加工してみて分かったこと

  • 言葉や図で理解していても、実際に加工すると新たな発見がある
  • 失敗から学ぶことが非常に多い
  • データ作成時の小さな注意が、加工結果に大きく影響する
  • レーザーヘッドの動きをイメージすることで、適切なデータ形式を選べる
  • 無料のInkscapeでも十分にプロ品質のデータが作成できる

次のステップ

  1. Inkscapeをダウンロードして実際に触ってみる
  2. シンプルなデータを作成してみる(四角や円など)
  3. テストカットで素材ごとのパラメータを把握する
  4. より複雑なデザインに挑戦する

レーザー加工は試行錯誤の連続ですが、基本を押さえれば確実に上達します。Inkscapeという無料ツールがあれば、誰でも今日からレーザー加工用のデータ作成を始められます。

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