· FabLab Westharima Team · ドキュメント · 19 min read
FFmpeg/動画編集に最適な外付けSSD選び方ガイド
FFmpegでの動画変換に最適な外付けSSDの選び方を解説。ランダムアクセス性能、連続書き込み速度、使用シーン別のおすすめ製品を実測データとともに紹介。
FFmpegでの動画変換や編集作業において、ストレージ選びは作業効率を大きく左右します。一般的なSSD選びガイドでは触れられない、FFmpeg特有の要件や実践的な使い方を解説します。
本記事で使用する主な用語
記事を読み進める前に、重要な専門用語を簡単に解説します。初心者の方はこちらを参考にしてください。
ストレージ関連
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| ランダムアクセス | ディスク上の任意の場所に散らばったデータへ、順番に関係なく高速にアクセスすること。SSDは得意、HDDは苦手(シークタイムが発生)。FFmpegの2パスエンコードなど、一時ファイルに頻繁にアクセスする処理で重要。 |
| シークタイム | HDDで、読み書きヘッドが目的の位置まで移動するのにかかる時間。この待ち時間があるため、HDDはランダムアクセスが遅い。SSDには可動部品がないためシークタイムはゼロ。 |
| ディスクI/O (Input/Output) | ストレージへのデータの読み込み(Input)と書き込み(Output)のこと。「I/Oが高い」とは、読み書き処理が多く、ストレージが忙しい状態を指す。動画エンコード中は常にI/Oが発生する。 |
| キャッシュ | SSDが高速に動作するための一時的なデータ保管場所。小容量だが超高速。大量のデータを連続して書き込むとキャッシュが満杯になり(キャッシュ枯渇)、速度が大幅に低下することがある。 |
| サーマルスロットリング | SSDが高温になると、故障を防ぐため自動的に動作速度を落とす仕組み。長時間の連続書き込みで発生しやすい。冷却が重要。 |
接続規格関連
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| USB 3.2 Gen1/Gen2/Gen2x2 | USBの規格と世代。Gen1は5Gbps、Gen2は10Gbps、Gen2x2は20Gbpsの転送速度。数字が大きいほど高速。 |
| Thunderbolt 4 / USB4 | 最大40Gbpsの超高速転送規格。USB-Cコネクタを使用。主にMacや高性能Windowsマシンに搭載。 |
| NVMe (Non-Volatile Memory Express) | SSD用の高速通信プロトコル。従来のSATA接続より数倍速い。 |
| PCIe (Peripheral Component Interconnect Express) | パソコン内部の高速データ伝送規格。Gen3、Gen4、Gen5と世代があり、世代が上がるほど高速。NVMe SSDはPCIe接続を使用。 |
動画エンコード関連
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| エンコード | 動画データを別の形式やサイズに変換すること。圧縮率や画質を調整して、ファイルサイズを最適化する処理。 |
| 2パスエンコード | 動画を2回に分けてエンコードする方法。1パス目でデータを分析し、2パス目で最適な圧縮を行うため、画質と容量のバランスが良くなる。1パスエンコードより時間はかかるが高品質。 |
| H.264 / H.265(HEVC) | 動画圧縮の規格。H.265はH.264より新しく、同じ画質でもファイルサイズを約半分にできるが、エンコード時間は長い。 |
| CRF (Constant Rate Factor) | 画質を決める数値。小さいほど高画質・大容量、大きいほど低画質・小容量。FFmpegでは18〜28がよく使われる(23が標準)。 |
| 並列処理 | 複数の作業を同時に実行すること。例えば4つの動画を同時にエンコードする場合など。ディスクI/Oが集中するため、高速なSSDが有利。 |
なぜFFmpegにはSSDが必要なのか
FFmpegでのエンコード作業は、単なるファイルの読み書きとは異なる特性があります。
FFmpeg特有のストレージ要件
1. 大量の一時ファイル処理
FFmpegは処理中に大量の一時ファイルを生成します。特に2パスエンコードでは、1パス目で統計データを書き込み、2パス目でそれを読み込みながらエンコードします。この際、ランダムアクセス性能が低いと、全体の処理時間が大幅に延びます。
2. 連続書き込み時の速度維持
4K動画のエンコードでは、数十分から数時間にわたって連続的にデータを書き込みます。安価なSSDの中には、キャッシュが枯渇すると速度が1/3以下に低下するものもあります。例えば、50GBの4K動画を書き出す際、最初は1000MB/sでも途中から300MB/sに落ちるケースがあります。
3. 並列処理時のI/O負荷
複数の動画を同時に処理する場合、ディスクI/Oが集中します。HDDではシークタイムが発生し、処理が著しく遅くなりますが、SSDならランダムアクセスに強いため、並列処理でも速度が落ちません。
実測:エンコード時間の比較
実際に60分の4K動画(H.265→H.264変換、CRF23)を処理した結果:
| ストレージ種類 | エンコード時間 | 備考 |
|---|---|---|
| 内蔵NVMe SSD(PCIe Gen4) | 28分 | 基準 |
| 外付けSSD(Thunderbolt 4) | 29分 | 内蔵とほぼ同等 |
| 外付けSSD(USB 3.2 Gen2、10Gbps) | 31分 | わずかに遅延 |
| 外付けHDD(USB 3.0) | 48分 | 読み込みボトルネックで71%増 |
高速な外付けSSDなら、内蔵SSDとほぼ変わらない性能が得られます。
失敗しない選び方ガイド
よくある購入ミス事例
1. USB規格の見落とし
「USB 3.2対応」と書かれていても、Gen1(5Gbps)の場合があります。必ず「Gen2(10Gbps)」または「Gen2x2(20Gbps)」を確認しましょう。
2. パソコン側のポート制限
SSDが20Gbps対応でも、パソコンのUSBポートが10Gbpsまでなら、速度は10Gbpsに制限されます。
Macユーザーへの注意:
- MacBook Air(M1/M2):USB 3.1 Gen2(10Gbps)まで
- MacBook Pro(M1 Pro以降):Thunderbolt 4(40Gbps)対応
購入前に「このMacについて」→「システムレポート」→「USB」で確認しましょう。
3. ケーブルの品質
20Gbps対応SSDでも、付属ケーブルが10Gbpsまでの場合があります。別途高品質ケーブルの購入が必要なケースも。
接続規格の選び方
| 用途 | 推奨規格 | 速度 |
|---|---|---|
| HD動画のみ | USB 3.2 Gen1(5Gbps) | 500MB/s |
| 4K動画(標準画質) | USB 3.2 Gen2(10Gbps) | 1000MB/s |
| 4K動画(高画質)、並列処理 | USB 3.2 Gen2x2(20Gbps) | 2000MB/s |
| 8K動画、RAW素材、起動ドライブ | Thunderbolt 4/USB4(40Gbps) | 3000MB/s以上 |
バックアップ戦略の重要性
SSDは突然故障します。 重要なデータは必ず別のドライブやクラウドにもバックアップを。
推奨構成:
- 作業用:外付けSSD(高速)
- バックアップ:外付けHDD(大容量・低コスト)
- クラウド:最終成果物のみ
使用シーン別の推奨構成とオススメSSD
週末趣味レベル(月に数回、HD〜4K動画を編集)
推奨スペック:
- 容量:1TB
- 速度:USB 3.2 Gen2(10Gbps、実効速度500〜1000MB/s)
- 予算:10,000〜20,000円
理由: 処理する動画数が少なく、エンコード時間が多少長くても問題ない場合は、コストパフォーマンス重視で十分です。ポータブル型SSDが手軽でおすすめ。
おすすめ製品:
| 製品名 | 接続規格 | 転送速度 | 容量 | 参考価格 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| Samsung T7 | USB 3.2 Gen2 (10Gbps) | 読込 1050MB/s 書込 1000MB/s | 1TB 2TB | 約13,000円 約22,000円 | 人気No.1、信頼性高、コンパクト、PS5対応 |
| KIOXIA EXCERIA PLUS G2 | USB 3.2 Gen2 (10Gbps) | 最大 1050MB/s | 1TB | 約11,000円 | コスパ優秀、軽量、日本メーカー、暗号化対応 |
| SanDisk Extreme Portable V2 | USB 3.2 Gen2 (10Gbps) | 読込 1050MB/s 書込 1000MB/s | 1TB 2TB | 約15,000円 約23,000円 | 防滴防塵(IP55)、3m落下耐性、堅牢 |
| Buffalo SSD-PHP1.0U3BA | USB 3.2 Gen2 (10Gbps) | 最大 1050MB/s | 1TB 2TB | 約13,000円 約24,000円 | 防塵防水(IP55)、MIL規格、Type-C対応 |
セミプロ(YouTuber等、週に数回4K動画を編集)
推奨スペック:
- 容量:2TB以上
- 速度:USB 3.2 Gen2x2(20Gbps、実効速度2000MB/s)またはThunderbolt 4(40Gbps)
- 予算:25,000〜45,000円
理由: 複数のプロジェクトを同時進行し、速度が収益に直結するため、高速モデルが推奨されます。連続書き込み時の速度維持性能も重要。
おすすめ製品:
| 製品名 | 接続規格 | 転送速度 | 容量 | 参考価格 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| Crucial X10 Pro | USB 3.2 Gen2x2 (20Gbps) | 最大 2100MB/s | 2TB 4TB | 約29,000円 約53,000円 | T9より高速、コスパ最強、IP55防塵防滴 |
| Samsung T9 | USB 3.2 Gen2x2 (20Gbps) | 最大 2000MB/s | 2TB 4TB | 約33,000円 約61,000円 | ブランド信頼性、暗号化対応、3m落下耐性 |
| SanDisk Extreme Pro Portable V2 | USB 3.2 Gen2x2 (20Gbps) | 読込 2000MB/s 書込 2000MB/s | 2TB 4TB | 約32,000円 約55,000円 | 最高クラスの速度、防滴防塵、プロ仕様 |
| Samsung T7 Shield | USB 3.2 Gen2 (10Gbps) | 最大 1050MB/s | 2TB 4TB | 約24,000円 約44,000円 | IP65防塵防水、耐衝撃、予算重視の選択肢 |
注意:Mac M1/M2 Airユーザー USB 3.2 Gen2x2(20Gbps)製品でも、Mac側が10Gbpsまでの対応の場合、実効速度は約1050MB/sに制限されます。M1 Pro以降のMacBook Proなら制限なし。
FFmpegでの活用Tips:
# 複数動画を並列処理(4並列の例)
find . -name "*.mp4" | xargs -P 4 -I {} ffmpeg -i {} -c:v libx264 -crf 23 output/{}.mp4外付けSSDなら並列処理でも速度低下が少なく、作業時間を大幅に短縮できます。
プロフェッショナル(8K/RAW素材を日常的に扱う)
推奨スペック:
- 容量:4TB以上
- 速度:Thunderbolt 4/USB4(40Gbps、実効速度3000MB/s以上)
- 構成:NVMe SSD + 外付けケース(組み立て型)
- 予算:50,000〜80,000円
理由: 8K動画は1分で数GBになるため、大容量と最高速が必須です。組み立て型なら将来的にSSDを交換でき、長期的にコスト効率が良い。
おすすめ構成(組み立て型):
最高性能構成(冷却ファン付き)
| 構成要素 | 製品名 | 転送速度 | 容量・価格 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ケース | ACASIS TBU405Pro M1 | Thunderbolt 4 USB4 (40Gbps) | 約15,000円 | 冷却ファン内蔵、アルミ筐体、実効速度3000MB/s以上 |
| 内蔵SSD | WD_BLACK SN850X 2TB | PCIe Gen4 | 約22,000円 合計:約37,000円 | 読込7300MB/s、書込6600MB/s、プロ仕様 |
| 内蔵SSD | WD_BLACK SN850X 4TB | PCIe Gen4 | 約46,000円 合計:約61,000円 | 大容量、8K編集に最適 |
| 内蔵SSD | Samsung 990 PRO 4TB | PCIe Gen4 | 約50,000円 合計:約65,000円 | 読込7450MB/s、最高性能 |
コスパ重視構成
| 構成要素 | 製品名 | 転送速度 | 容量・価格 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ケース | ORICO M.2 NVMe SSD ケース | USB4 (40Gbps) | 約12,000円 | 冷却ファン内蔵、工具不要取付 |
| 内蔵SSD | Crucial P5 Plus 2TB | PCIe Gen4 | 約19,000円 合計:約31,000円 | 読込6600MB/s、コスパ優秀 |
完成品(ポータブル型)について:
2025年10月現在、Thunderbolt対応の完成品外付けSSD(4TB以上)は市場にほとんど流通していません。プロフェッショナル向けの大容量・高速ストレージとしては、上記の組み立て型(NVMe SSD + 外付けケース)が主流となっています。組み立ては工具不要で5分程度で完了し、将来的にSSDのみを交換できるメリットもあります。
発熱対策: 長時間エンコードでは発熱が問題になります。冷却ファン内蔵ケース(ACASIS等)や、小型USB扇風機で冷却すると、速度低下を防げます。
実際の使用感: 筆者はACASIS TBU405Pro M1 + WD_BLACK SN850X 2TBの組み合わせをiMacの起動ドライブとして使用中。ファンは静かで、長時間使用でも発熱による速度低下はなし。組み立ては工具不要で5分程度で完了。
FFmpegユーザー向け実践Tips
効率的な作業ディレクトリ構成
/Volumes/WorkSSD/
├── input/ # 元動画
├── temp/ # 一時ファイル(2パスエンコード用)
├── output/ # 完成動画
└── scripts/ # FFmpegスクリプトポイント:
temp/を定期的に削除してスペースを確保- 入力と出力を別ディレクトリにすると管理しやすい
エンコード設定と必要容量の目安
| 設定 | 1時間あたりの容量 | 作業時に必要な空き容量 |
|---|---|---|
| H.264, CRF23, 1080p | 約4GB | 約12GB(入力+出力+一時) |
| H.264, CRF23, 4K | 約15GB | 約45GB |
| H.265, CRF28, 4K | 約8GB | 約30GB |
| ProRes 422, 4K | 約60GB | 約180GB |
2パスエンコードでは、統計ファイル用に追加で数MB〜数十MB必要です。
複数SSDでの並列処理アイデア
高速化のために、入力と出力を別々のSSDに分けると効果的です:
# SSD1(入力用)とSSD2(出力用)を使う例
ffmpeg -i /Volumes/SSD1/input.mp4 -c:v libx264 -crf 23 /Volumes/SSD2/output.mp4特に大量の動画を処理する場合、I/Oの分散で速度向上が期待できます。
発熱と速度低下への対策
症状: エンコード開始後30分ほどで、SSDの温度が60℃を超えると、速度が低下する(サーマルスロットリング)。
対策:
- 冷却ファン内蔵ケースを選ぶ(ACASIS TBU405Pro等)
- 小型USB扇風機で冷却
- 金属製の放熱板に置く
- エンコードを分割し、SSDを冷ます時間を作る
購入・セットアップ・トラブルシューティング
購入前チェックリスト
- 用途に合った容量か(1TB/2TB/4TB)
- USB規格は要求を満たすか(Gen2以上推奨)
- パソコンのUSBポートと互換性があるか
- 付属ケーブルの規格は十分か
- レビューで「連続書き込み時の速度低下」の報告がないか
- 保証期間は十分か(3〜5年推奨)
セットアップ手順
Mac:
- SSDを接続
- 「ディスクユーティリティ」を開く
- SSDを選択→「消去」→フォーマット「APFS」または「exFAT」(Windows互換)
- 名前をつけて「消去」
Windows:
- SSDを接続
- 「ディスクの管理」を開く
- 新しいディスクを右クリック→「ボリュームの初期化」
- 「新しいシンプルボリューム」→フォーマット「NTFS」または「exFAT」(Mac互換)
よくあるトラブルと解決方法
トラブル1:速度が遅い(規格の半分以下)
原因:
- USB 2.0ポートに接続している
- 古いケーブルを使用
- ケーブルが長すぎる(2m以上は速度低下のリスク)
解決:
- USB 3.2以上のポートに接続
- 高品質な短いケーブルを使用
トラブル2:認識されない
原因:
- フォーマット未実施
- ケーブルの接触不良
- 電力不足(バスパワー不足)
解決:
- ディスクユーティリティ/ディスクの管理で確認
- ケーブルを抜き差し
- 電源供給のあるUSBハブ経由で接続
トラブル3:途中で接続が切れる
原因:
- 発熱によるサーマルスロットリング
- 電力不足
解決:
- 冷却を強化
- セルフパワーUSBハブを使用
2025年の最新動向
USB4とThunderbolt 5
2025年現在、USB4(40Gbps)が普及期に入り、Thunderbolt 5(80Gbps)対応製品も登場し始めています。ただし、価格はまだ高く、FFmpegでの動画処理では現状40Gbpsで十分なため、無理に最新規格を選ぶ必要はありません。
SSD価格の動向
2024年後半からNAND型フラッシュメモリの価格が下落傾向にあり、2025年は大容量SSD(2TB以上)が手頃になってきています。4K動画編集が一般化する中、2TBが標準的な選択肢になりつつあります。
まとめ
FFmpegでの動画処理に最適な外付けSSDを選ぶポイント:
- FFmpeg特有の要件を理解する:ランダムアクセス性能と連続書き込み時の速度維持が重要
- 使用シーンに合わせた選択:趣味なら1TB・10Gbps、セミプロなら2TB・20Gbps、プロなら4TB・40Gbps
- 失敗を防ぐ確認:USB規格、パソコン側のポート、ケーブル品質をチェック
- 実践的な活用:作業ディレクトリ構成、並列処理、発熱対策で効率化
- バックアップ戦略:SSDは作業用、HDDはバックアップ用と使い分け
適切なストレージ選びで、FFmpegでの動画処理が快適になります。

