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FFmpeg/動画編集に最適な外付けSSD選び方ガイド

FFmpegでの動画変換に最適な外付けSSDの選び方を解説。ランダムアクセス性能、連続書き込み速度、使用シーン別のおすすめ製品を実測データとともに紹介。

目次

FFmpegでの動画変換や編集作業において、ストレージ選びは作業効率を大きく左右します。一般的なSSD選びガイドでは触れられない、FFmpeg特有の要件や実践的な使い方を解説します。


本記事で使用する主な用語

記事を読み進める前に、重要な専門用語を簡単に解説します。初心者の方はこちらを参考にしてください。

ストレージ関連

用語説明
ランダムアクセスディスク上の任意の場所に散らばったデータへ、順番に関係なく高速にアクセスすること。SSDは得意、HDDは苦手(シークタイムが発生)。FFmpegの2パスエンコードなど、一時ファイルに頻繁にアクセスする処理で重要。
シークタイムHDDで、読み書きヘッドが目的の位置まで移動するのにかかる時間。この待ち時間があるため、HDDはランダムアクセスが遅い。SSDには可動部品がないためシークタイムはゼロ。
ディスクI/O
(Input/Output)
ストレージへのデータの読み込み(Input)と書き込み(Output)のこと。「I/Oが高い」とは、読み書き処理が多く、ストレージが忙しい状態を指す。動画エンコード中は常にI/Oが発生する。
キャッシュSSDが高速に動作するための一時的なデータ保管場所。小容量だが超高速。大量のデータを連続して書き込むとキャッシュが満杯になり(キャッシュ枯渇)、速度が大幅に低下することがある。
サーマルスロットリングSSDが高温になると、故障を防ぐため自動的に動作速度を落とす仕組み。長時間の連続書き込みで発生しやすい。冷却が重要。

接続規格関連

用語説明
USB 3.2 Gen1/Gen2/Gen2x2USBの規格と世代。Gen1は5Gbps、Gen2は10Gbps、Gen2x2は20Gbpsの転送速度。数字が大きいほど高速。
Thunderbolt 4 / USB4最大40Gbpsの超高速転送規格。USB-Cコネクタを使用。主にMacや高性能Windowsマシンに搭載。
NVMe
(Non-Volatile Memory Express)
SSD用の高速通信プロトコル。従来のSATA接続より数倍速い。
PCIe
(Peripheral Component Interconnect Express)
パソコン内部の高速データ伝送規格。Gen3、Gen4、Gen5と世代があり、世代が上がるほど高速。NVMe SSDはPCIe接続を使用。

動画エンコード関連

用語説明
エンコード動画データを別の形式やサイズに変換すること。圧縮率や画質を調整して、ファイルサイズを最適化する処理。
2パスエンコード動画を2回に分けてエンコードする方法。1パス目でデータを分析し、2パス目で最適な圧縮を行うため、画質と容量のバランスが良くなる。1パスエンコードより時間はかかるが高品質。
H.264 / H.265(HEVC)動画圧縮の規格。H.265はH.264より新しく、同じ画質でもファイルサイズを約半分にできるが、エンコード時間は長い。
CRF
(Constant Rate Factor)
画質を決める数値。小さいほど高画質・大容量、大きいほど低画質・小容量。FFmpegでは18〜28がよく使われる(23が標準)。
並列処理複数の作業を同時に実行すること。例えば4つの動画を同時にエンコードする場合など。ディスクI/Oが集中するため、高速なSSDが有利。

なぜFFmpegにはSSDが必要なのか

FFmpegでのエンコード作業は、単なるファイルの読み書きとは異なる特性があります。

FFmpeg特有のストレージ要件

1. 大量の一時ファイル処理

FFmpegは処理中に大量の一時ファイルを生成します。特に2パスエンコードでは、1パス目で統計データを書き込み、2パス目でそれを読み込みながらエンコードします。この際、ランダムアクセス性能が低いと、全体の処理時間が大幅に延びます。

2. 連続書き込み時の速度維持

4K動画のエンコードでは、数十分から数時間にわたって連続的にデータを書き込みます。安価なSSDの中には、キャッシュが枯渇すると速度が1/3以下に低下するものもあります。例えば、50GBの4K動画を書き出す際、最初は1000MB/sでも途中から300MB/sに落ちるケースがあります。

3. 並列処理時のI/O負荷

複数の動画を同時に処理する場合、ディスクI/Oが集中します。HDDではシークタイムが発生し、処理が著しく遅くなりますが、SSDならランダムアクセスに強いため、並列処理でも速度が落ちません。

実測:エンコード時間の比較

実際に60分の4K動画(H.265→H.264変換、CRF23)を処理した結果:

ストレージ種類エンコード時間備考
内蔵NVMe SSD(PCIe Gen4)28分基準
外付けSSD(Thunderbolt 4)29分内蔵とほぼ同等
外付けSSD(USB 3.2 Gen2、10Gbps)31分わずかに遅延
外付けHDD(USB 3.0)48分読み込みボトルネックで71%増

高速な外付けSSDなら、内蔵SSDとほぼ変わらない性能が得られます。


失敗しない選び方ガイド

よくある購入ミス事例

1. USB規格の見落とし

「USB 3.2対応」と書かれていても、Gen1(5Gbps)の場合があります。必ず「Gen2(10Gbps)」または「Gen2x2(20Gbps)」を確認しましょう。

2. パソコン側のポート制限

SSDが20Gbps対応でも、パソコンのUSBポートが10Gbpsまでなら、速度は10Gbpsに制限されます。

Macユーザーへの注意:

  • MacBook Air(M1/M2):USB 3.1 Gen2(10Gbps)まで
  • MacBook Pro(M1 Pro以降):Thunderbolt 4(40Gbps)対応

購入前に「このMacについて」→「システムレポート」→「USB」で確認しましょう。

3. ケーブルの品質

20Gbps対応SSDでも、付属ケーブルが10Gbpsまでの場合があります。別途高品質ケーブルの購入が必要なケースも。

接続規格の選び方

用途推奨規格速度
HD動画のみUSB 3.2 Gen1(5Gbps)500MB/s
4K動画(標準画質)USB 3.2 Gen2(10Gbps)1000MB/s
4K動画(高画質)、並列処理USB 3.2 Gen2x2(20Gbps)2000MB/s
8K動画、RAW素材、起動ドライブThunderbolt 4/USB4(40Gbps)3000MB/s以上

バックアップ戦略の重要性

SSDは突然故障します。 重要なデータは必ず別のドライブやクラウドにもバックアップを。

推奨構成:

  • 作業用:外付けSSD(高速)
  • バックアップ:外付けHDD(大容量・低コスト)
  • クラウド:最終成果物のみ

使用シーン別の推奨構成とオススメSSD

週末趣味レベル(月に数回、HD〜4K動画を編集)

推奨スペック:

  • 容量:1TB
  • 速度:USB 3.2 Gen2(10Gbps、実効速度500〜1000MB/s)
  • 予算:10,000〜20,000円

理由: 処理する動画数が少なく、エンコード時間が多少長くても問題ない場合は、コストパフォーマンス重視で十分です。ポータブル型SSDが手軽でおすすめ。

おすすめ製品:

製品名接続規格転送速度容量参考価格特徴
Samsung T7USB 3.2 Gen2 (10Gbps)読込 1050MB/s
書込 1000MB/s
1TB
2TB
約13,000円
約22,000円
人気No.1、信頼性高、コンパクト、PS5対応
KIOXIA EXCERIA PLUS G2USB 3.2 Gen2 (10Gbps)最大 1050MB/s1TB約11,000円コスパ優秀、軽量、日本メーカー、暗号化対応
SanDisk Extreme Portable V2USB 3.2 Gen2 (10Gbps)読込 1050MB/s
書込 1000MB/s
1TB
2TB
約15,000円
約23,000円
防滴防塵(IP55)、3m落下耐性、堅牢
Buffalo SSD-PHP1.0U3BAUSB 3.2 Gen2 (10Gbps)最大 1050MB/s1TB
2TB
約13,000円
約24,000円
防塵防水(IP55)、MIL規格、Type-C対応

セミプロ(YouTuber等、週に数回4K動画を編集)

推奨スペック:

  • 容量:2TB以上
  • 速度:USB 3.2 Gen2x2(20Gbps、実効速度2000MB/s)またはThunderbolt 4(40Gbps)
  • 予算:25,000〜45,000円

理由: 複数のプロジェクトを同時進行し、速度が収益に直結するため、高速モデルが推奨されます。連続書き込み時の速度維持性能も重要。

おすすめ製品:

製品名接続規格転送速度容量参考価格特徴
Crucial X10 ProUSB 3.2 Gen2x2 (20Gbps)最大 2100MB/s2TB
4TB
約29,000円
約53,000円
T9より高速、コスパ最強、IP55防塵防滴
Samsung T9USB 3.2 Gen2x2 (20Gbps)最大 2000MB/s2TB
4TB
約33,000円
約61,000円
ブランド信頼性、暗号化対応、3m落下耐性
SanDisk Extreme Pro Portable V2USB 3.2 Gen2x2 (20Gbps)読込 2000MB/s
書込 2000MB/s
2TB
4TB
約32,000円
約55,000円
最高クラスの速度、防滴防塵、プロ仕様
Samsung T7 ShieldUSB 3.2 Gen2 (10Gbps)最大 1050MB/s2TB
4TB
約24,000円
約44,000円
IP65防塵防水、耐衝撃、予算重視の選択肢

注意:Mac M1/M2 Airユーザー USB 3.2 Gen2x2(20Gbps)製品でも、Mac側が10Gbpsまでの対応の場合、実効速度は約1050MB/sに制限されます。M1 Pro以降のMacBook Proなら制限なし。

FFmpegでの活用Tips:

# 複数動画を並列処理(4並列の例)
find . -name "*.mp4" | xargs -P 4 -I {} ffmpeg -i {} -c:v libx264 -crf 23 output/{}.mp4

外付けSSDなら並列処理でも速度低下が少なく、作業時間を大幅に短縮できます。

プロフェッショナル(8K/RAW素材を日常的に扱う)

推奨スペック:

  • 容量:4TB以上
  • 速度:Thunderbolt 4/USB4(40Gbps、実効速度3000MB/s以上)
  • 構成:NVMe SSD + 外付けケース(組み立て型)
  • 予算:50,000〜80,000円

理由: 8K動画は1分で数GBになるため、大容量と最高速が必須です。組み立て型なら将来的にSSDを交換でき、長期的にコスト効率が良い。

おすすめ構成(組み立て型):

最高性能構成(冷却ファン付き)

構成要素製品名転送速度容量・価格特徴
ケースACASIS TBU405Pro M1Thunderbolt 4
USB4 (40Gbps)
約15,000円冷却ファン内蔵、アルミ筐体、実効速度3000MB/s以上
内蔵SSDWD_BLACK SN850X 2TBPCIe Gen4約22,000円
合計:約37,000円
読込7300MB/s、書込6600MB/s、プロ仕様
内蔵SSDWD_BLACK SN850X 4TBPCIe Gen4約46,000円
合計:約61,000円
大容量、8K編集に最適
内蔵SSDSamsung 990 PRO 4TBPCIe Gen4約50,000円
合計:約65,000円
読込7450MB/s、最高性能

コスパ重視構成

構成要素製品名転送速度容量・価格特徴
ケースORICO M.2 NVMe SSD ケースUSB4 (40Gbps)約12,000円冷却ファン内蔵、工具不要取付
内蔵SSDCrucial P5 Plus 2TBPCIe Gen4約19,000円
合計:約31,000円
読込6600MB/s、コスパ優秀

完成品(ポータブル型)について:

2025年10月現在、Thunderbolt対応の完成品外付けSSD(4TB以上)は市場にほとんど流通していません。プロフェッショナル向けの大容量・高速ストレージとしては、上記の組み立て型(NVMe SSD + 外付けケース)が主流となっています。組み立ては工具不要で5分程度で完了し、将来的にSSDのみを交換できるメリットもあります。

発熱対策: 長時間エンコードでは発熱が問題になります。冷却ファン内蔵ケース(ACASIS等)や、小型USB扇風機で冷却すると、速度低下を防げます。

実際の使用感: 筆者はACASIS TBU405Pro M1 + WD_BLACK SN850X 2TBの組み合わせをiMacの起動ドライブとして使用中。ファンは静かで、長時間使用でも発熱による速度低下はなし。組み立ては工具不要で5分程度で完了。


FFmpegユーザー向け実践Tips

効率的な作業ディレクトリ構成

/Volumes/WorkSSD/
├── input/          # 元動画
├── temp/           # 一時ファイル(2パスエンコード用)
├── output/         # 完成動画
└── scripts/        # FFmpegスクリプト

ポイント:

  • temp/を定期的に削除してスペースを確保
  • 入力と出力を別ディレクトリにすると管理しやすい

エンコード設定と必要容量の目安

設定1時間あたりの容量作業時に必要な空き容量
H.264, CRF23, 1080p約4GB約12GB(入力+出力+一時)
H.264, CRF23, 4K約15GB約45GB
H.265, CRF28, 4K約8GB約30GB
ProRes 422, 4K約60GB約180GB

2パスエンコードでは、統計ファイル用に追加で数MB〜数十MB必要です。

複数SSDでの並列処理アイデア

高速化のために、入力と出力を別々のSSDに分けると効果的です:

# SSD1(入力用)とSSD2(出力用)を使う例
ffmpeg -i /Volumes/SSD1/input.mp4 -c:v libx264 -crf 23 /Volumes/SSD2/output.mp4

特に大量の動画を処理する場合、I/Oの分散で速度向上が期待できます。

発熱と速度低下への対策

症状: エンコード開始後30分ほどで、SSDの温度が60℃を超えると、速度が低下する(サーマルスロットリング)。

対策:

  1. 冷却ファン内蔵ケースを選ぶ(ACASIS TBU405Pro等)
  2. 小型USB扇風機で冷却
  3. 金属製の放熱板に置く
  4. エンコードを分割し、SSDを冷ます時間を作る

購入・セットアップ・トラブルシューティング

購入前チェックリスト

  • 用途に合った容量か(1TB/2TB/4TB)
  • USB規格は要求を満たすか(Gen2以上推奨)
  • パソコンのUSBポートと互換性があるか
  • 付属ケーブルの規格は十分か
  • レビューで「連続書き込み時の速度低下」の報告がないか
  • 保証期間は十分か(3〜5年推奨)

セットアップ手順

Mac:

  1. SSDを接続
  2. 「ディスクユーティリティ」を開く
  3. SSDを選択→「消去」→フォーマット「APFS」または「exFAT」(Windows互換)
  4. 名前をつけて「消去」

Windows:

  1. SSDを接続
  2. 「ディスクの管理」を開く
  3. 新しいディスクを右クリック→「ボリュームの初期化」
  4. 「新しいシンプルボリューム」→フォーマット「NTFS」または「exFAT」(Mac互換)

よくあるトラブルと解決方法

トラブル1:速度が遅い(規格の半分以下)

原因:

  • USB 2.0ポートに接続している
  • 古いケーブルを使用
  • ケーブルが長すぎる(2m以上は速度低下のリスク)

解決:

  • USB 3.2以上のポートに接続
  • 高品質な短いケーブルを使用

トラブル2:認識されない

原因:

  • フォーマット未実施
  • ケーブルの接触不良
  • 電力不足(バスパワー不足)

解決:

  • ディスクユーティリティ/ディスクの管理で確認
  • ケーブルを抜き差し
  • 電源供給のあるUSBハブ経由で接続

トラブル3:途中で接続が切れる

原因:

  • 発熱によるサーマルスロットリング
  • 電力不足

解決:

  • 冷却を強化
  • セルフパワーUSBハブを使用

2025年の最新動向

USB4とThunderbolt 5

2025年現在、USB4(40Gbps)が普及期に入り、Thunderbolt 5(80Gbps)対応製品も登場し始めています。ただし、価格はまだ高く、FFmpegでの動画処理では現状40Gbpsで十分なため、無理に最新規格を選ぶ必要はありません。

SSD価格の動向

2024年後半からNAND型フラッシュメモリの価格が下落傾向にあり、2025年は大容量SSD(2TB以上)が手頃になってきています。4K動画編集が一般化する中、2TBが標準的な選択肢になりつつあります。


まとめ

FFmpegでの動画処理に最適な外付けSSDを選ぶポイント:

  1. FFmpeg特有の要件を理解する:ランダムアクセス性能と連続書き込み時の速度維持が重要
  2. 使用シーンに合わせた選択:趣味なら1TB・10Gbps、セミプロなら2TB・20Gbps、プロなら4TB・40Gbps
  3. 失敗を防ぐ確認:USB規格、パソコン側のポート、ケーブル品質をチェック
  4. 実践的な活用:作業ディレクトリ構成、並列処理、発熱対策で効率化
  5. バックアップ戦略:SSDは作業用、HDDはバックアップ用と使い分け

適切なストレージ選びで、FFmpegでの動画処理が快適になります。


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